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現代美術界入門 「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である」展

「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である」展@東京国立近代美術館に行ってきました。
派手な女性像のポスターがあちこちに貼られていますが、展覧会の内容自体は実に正統的なものでした。

展示されているのは、台湾の電子機器メーカー・ヤゲオのCEOが設立した財団のコレクションです。
アンディ・ウォーホールゲルハルト・リヒターフランシス・ベーコンなどの現代美術の巨匠の作品やサンユウからザオ・ウーキーまでの中華系美術家の作品などが一堂に展示され、コンパクトに現代美術、特に現代西洋絵画のエッセンスを感じることができる構成になっています。
フランシス・ベーコン展で出品された『ルシアン・フロイドの肖像のための三習作』が再来日していて、意外な再会にびっくりしました。

今回の展覧会で特に注目したのが、そのキャプションです。

本展覧会のキャプションでは絵画の出自や画家の紹介など通常のキャプションに加えて、現代美術界の様々な側面を紹介するキャプションが存在します。
絵画の落札価格や現代美術市場の潮流などにも触れ、ザオ・ウーキーの死去(2013年)と評価額の変化や、市場での中国と日本の存在感の対比など「絵画の金銭的価値」ということを積極的に考えさせる情報が掲載されているのです。
現代美術はその表現が本当に多様化しており、共通の評価基準を持ちにくくなっています。この状況でひとつの規準として作品の市場価格が採用されることがあります。一見アニメフィギュア的な村上隆氏の作品は「価値があるもの」としてニュースで報道されるとき、そこには市場価格以外の裏付けは極めて希薄です。「スーパーフラット」などの美術理論は表に出てきません。
しかし本展覧会のキャプションたちはそれが美的規準を正確に反映したものではなく、社会情勢に影響されるものであることを改めて示してくれます。中国の台頭による美術品の人気の変動や美術館への収蔵とオークション価格の関係など、美術品の価格形成要因を明らかにします。

そして現代美術における「コレクション」の存在意義を強調している点も注目です。
今回の展覧会ではヤゲオ財団コレクションについてコレクターの趣向や生活に寄り添った存在であると同時に、美術館が担う公的な役割と日々新しい出来事がおこる現代美術の世界の間を埋める役割を持っていることを強調しているのです。
新出の美術潮流を評価し作品を購入することで経済的に支援を行うことや、美術館では所蔵・展示がしにくい飛び抜けた個性を持っている作品を収集することなど、公共機関である美術館では間に合わない領域を柔軟に埋めることができ、コレクションから美術館へ作品の貸出を行うことで、より奥行きのある展覧会を構成することが可能になっているという側面があるのです。

思えば、ここ最近コレクションに立脚した展覧会というのが徐々に増えているように感じられます。プライスコレクションを先駆として、今年はパワーズコレクションや石川コレクションの作品を中心とした展覧会がありました。東京オペラシティでは、コレクターに注目を当てた現代美術展も開かれました。日本の展覧会では西欧の美術館の収蔵品をもとに展覧会は今でも多く存在しますが、今後は徐々にコレクションをもとに構成された展覧会に置き換わっていくのかもしれません。

このように本展覧会のキャプションを読みこめば、現代美術界の様々な構成要素に思い至ることになります。
現代美術の粋とあわせて、丁寧に書き込まれたキャプションをじっくり読んでみるのも良いと思います。