戦後日本住宅伝説 挑発する家・内省する家@埼玉県立近代美術館

そろそろ記事を書かないと変な広告が上がってきそうなので。

埼玉県立近代美術館にて『戦後日本住宅伝説 挑発する家・内省する家』という気合の入ったタイトルの展覧会に行ってきました。
挑発的なタイトルが気になったのと、この展覧会が終わると埼玉県立近代美術館は改装期間に入ってしまうのも相まって浦和まで出かけました。

この展覧会は、戦後の日本を牽引した著名な建築家の代表的住宅建築を回顧していこうという趣旨の展覧会です。対象は1950年代から1970年代に集中しています。
実際には中銀カプセルタワーや新宿ホワイトハウスといった住宅とは分類しにくい建築についての展示もありましたので、「小規模かつプライベートな建築」を対象としていると考えたほうがいいかもしれません。
展覧会の会場ではパネルによる説明、図面や写真資料に加えて、模型やビデオ映像を駆使することによってその住宅の特色、特に内部空間の構成について立体的に把握できるようにすることで理解しやすいようにしています。模型と映像資料の両方が存在することによって、住宅の大きさや光の入り具合、さらには住宅の色なども想像しやすいようになっていて、今まで訪れた建築系の展覧会では一番わかりやすかったです。
また、映像資料は既存のテレビ番組からの引用もあり、映像のレベルが高く10分以上の長い尺の中でタップリと解説をしてくれるので最後までじっくり見て楽しむことが出来ました。

戦後日本のプライベート空間

この展覧会で取上げられた作品はいずれも戦後建築史においてエポックメイキングな作品なのだと思います。あまり建築に詳しくない私でも取上げられた建築の名前くらいは聞いたことがありました。
しかしそれでも取上げられた作品についてはある程度「公/私」の指向についてばらつきがあるように感じられます。
例えば増沢洵氏の「コアのあるH氏の住まい」・清家清氏の「私の家」・東孝光氏の「塔の家」・菊竹清訓氏の「スカイハウス」といった作品群には、住居としてのプロトタイプ性を含んだ設計がなされているのではないでしょうか。一方で毛綱毅曠氏の「反住器」や石山修武氏の「幻庵」などは非常にデザイン性を前面に押し出した住宅ですし、伊東豊雄氏の「中野本町の家」は住民の生活に非常に強く寄り添って設計された住宅です。
住宅ばかりを展示することによって、このような住宅建築の「公/私」の二面性についてのグラデーションが明らかになり、その中から住宅の基礎原理というものが浮き上がってくるというのが本展覧会の肝かもしれません。

1950年代から60年代にかけて、日本における住宅のプロトタイプは以下の方向に修練していったように思われます。

  • 変幻自在な間仕切りを持ち、用途によって空間を住民自身が再構成する「設え」
  • 家族の気配を感じお互いに配慮することを前提として、空間を完全に分断しない半連続的な構造
  • 住宅の内と外との境界線の曖昧さ

これらの考え方は、テレビ番組『劇的ビフォーアフター』で取上げられるリフォームデザインによく見られる考え方であり、リフォームを必要とするようなタイプの家にとっては、現代にも通用する理論であるのではないでしょうか。

そして、こうしたプライベート空間の理論と都市の空間の理論をダイナミックに結合したのがメタボリズムグループでした。黒川紀章氏の「中銀カプセルタワー」に代表される建築ですが、むしろ「海上都市構想」などのダイナミックな都市デザインにも力を発揮し日本の戦後デザインを引っ張って行ったグループです。しかし、いかんせんこれらの構想はしばしば誇大妄想的であり、実現困難なものでした。1970年大阪万博、1973年中銀カプセルタワー完成といったイベントを迎えると、急速に拡大する都市と住宅という課題は消滅し、住宅から都市理論全体までを一気通貫するような考え方は少なくなってしました。
以後は住宅をしっかりと密閉することで、プライベート空間を護持するものとしての住宅が確立されるとともに、プライベート空間であるがゆえの自由さというものが生まれてきました。安藤忠雄氏の「住吉の長屋」や伊東豊雄氏の「中野本町の家」は外部との関わりはあまり強く求めず、都市から自立した住宅を標榜しているかのようです。

しかし、そろそろ住宅と都市との関係性を改めて問い直す時期が来ていると思います。高度成長期の膨張する都市と住宅・低成長時代のプライベートな住宅から、縮小する都市の中での住宅を先導していくような住宅デザインが今必要とされています。
東京への一極集中を促進するようなタワーマンションの乱立が、現代日本の住宅デザインの最先端となっています。天をも見上げる高さのマンションが個々別々に立ち並ぶ光景をどのように整理するのかが新しく問われているような気がします。

そうした現代の住宅建築から都市デザインまでの課題を認識させてくれる展覧会だったと思います。