2600円の話 岡田美術館と湘南ベルマーレ

4月20日は神奈川県西部の2箇所を訪れました。
1箇所が箱根にある岡田美術館で開催された「再発見 歌麿「深川の雪」」、もう1箇所がShonanBMWスタジアム平塚で開催された「湘南ベルマーレvs大分トリニータ」の試合です。

岡田美術館訪問

まず午前中は岡田美術館へ。
この美術館は2013年秋に新しく出来た美術館で、名誉館長の岡田和生氏(ユニバーサルエンターテインメント創業者)の個人コレクションを展示するために建設されました。場所は小涌園のすぐ隣、ホテル開化亭の跡地です。今回は2012年に再発見されメディアでも話題になった喜多川歌麿の肉筆浮世絵「深川の雪」が展示されるため、一目見ておこうと箱根まで足を伸ばしました。

岡田美術館を初めて訪問して驚いたのは入場時のセキュリティの厳しさ。入り口に金属探知機がある美術館は国内では他にないのではないでしょうか。携帯電話・カメラ・飲料などは持ち込み禁止ということで、カバンなどもX線検査機にかけられており、空港さながらのセキュリティチェックを通過して、館内に入ります。

展示は1Fが中国朝鮮陶磁、2Fが日本の陶磁、3Fが屏風絵、4Fが掛け軸・近代絵画・漆芸と数多くの作品が並べられていました。5Fにも展示があったようですが、時間の関係で拝見することはできず。Webサイトなどの情報からではおそらく仏像などが展示されていたようです。
5階建の館内を埋める美術品の数にも驚かされますが、その質にも非常に驚かされました。特に中国朝鮮の陶磁について収蔵品の優美さという点では今まで訪れた美術館の中で随一だと感じました。今までに訪れたことのある大阪市東洋陶磁美術館や松岡美術館などの収蔵品と比べても遜色はないのではないでしょうか。古代中国から清時代までバラエティ豊かでいずれ劣らぬ優品が並んでおり、息もつかせぬ展示内容です。少し下世話ですが丈のある万暦赤絵の壺などは「億近くするんだろうな」などという感想も浮かびました。
また、3F・4Fに展示されている日本の絵画についても、狩野派俵屋宗達に始まり東山魁夷までを含めた近世以降の日本美術史に名を刻んでいる絵師の作品が多く並んでおり、ここに展示をされている作品で日本美術の歴史の授業ができそうだなという感じです。全体として総花的ではありますが、春画の特集展示などの面白い企画もあり、またじっくり鑑賞したいと思わせる展示内容です。

そして、今回訪れた目的でもある作品『深川の雪』は2F日本陶磁の展示室の中央にあります。
一目見て存在感があると同時にいつまで見ても飽きない、そんな作品でした。
その私の背丈を超える画面いっぱいに描かれた深川遊郭の図。辰巳芸者や女中さんがところ狭しと描かれていますが、その表情や仕草などから一人ひとりに個性が与えられていることがわかります。雪化粧をした庭を眺めながている女性、料理を運ぶ女性、火鉢を囲む気だるげな女性たち。これだけの画中の女性たちを一人残らず魂を吹き込むのはさすが美人絵の巨匠、喜多川歌麿です。
さらにそれぞれの女性たちが着ている色とりどりの季節の衣装や、雀・猫・子どもなどの小さきものが画面に華と賑やかさを加えてくれます。
全体の構図から細部のデザインまで巧妙に構築され、個性的な女性たちが画面いっぱいに並べられている本作は間違いなく江戸時代の美術作品の傑作の1つだと言い切ってしまって良いのではないでしょうか。

ということで、お目当ての「深川の雪」以外の作品についても非常に楽しめた美術館でした。すこし展示作品数が多くてすべて回るのにはつかれますが、レベルはほんとうに高いです。個人的には大和文華館に初めて言った時のような衝撃でした。こんなにいい美術館に言ったことがなかったなんて、という感じで。

shonan BMW 平塚訪問

続いて、湘南ベルマーレ vs 大分トリニータの試合を見にshonan BMWスタジアム平塚に行きました。
岡田美術館を出た時点で、箱根の山は雨。
この日は予報が曇だったためレインコートの準備をせずに出てきてしまい不安でした。湘南のスタジアムはメインスタンドの中央部のみが屋根つきのため、濡れながらの観戦はテンション下がるなーと。しかし小田原まで降りてくると雨は降っておらず、ちょっと気温が寒いかな程度。これなら心配なくスタジアムに行くことができます。

平塚駅からシャトルバスに乗り、スタジアムへ。
スタジアム近くにある屋台村「ベルマーレフードパーク」でお昼ごはんを調達します。到着時刻は午後3時くらいでしたが、箱根からの移動で時間を取られてお昼にありつけていませんでした。フードパークではラーメンと餃子という中華食堂のような組み合わせを購入。「じゃんぼ」さんの餃子はあんに野菜がしっかりと入っていて、皮もパリパリともっちりのバランスが絶妙でとても美味しかったです。

席はメインスタンドアウェイ側に確保。
湘南名物の独特な選手紹介が始まると徐々にスタンドも試合に向けてボルテージが高まっていきます。

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コレで「カミソリ」という読むキャッチフレーズ。今年のキャッチフレーズは「湘南の〇〇」が多かったですが、ネタ切れ?

試合は8連勝中の湘南が前半からペースを握って進んでいきます。
湘南ほんとうにすごいですね。プレスの強度といい、奪ってからの展開といい、J2ではちょっとやそっとじゃ崩れたりしそうにはない感じです。とにかくボールを失った瞬間・奪った瞬間からの攻守のスイッチがバシバシ切り替わっていく感じは、試合から目を離す隙を与えませんでした。確かにこのサッカーは一見の価値があるように思います。夏になるとまた違った要素が必要になりそうなので、今のうちに湘南イズムバリバリのサッカーを見ることができて良かったです。
前半は大槻選手によるスーパーなミドルシュートとセットプレーからの詰めで遠藤選手による得点で2-0で終了。

後半になると徐々に大分もペースをつかみ始めます。センターバックの強い守備から湘南のブロックの間にパスを入れ始めて、ゴール前に迫るシーンも度々見られました。後半途中には元川崎の木村祐志風間宏矢も出場し、攻勢を強めていました。しかし、いかんせん決定力が足りなかった。風間宏矢センターフォワードの位置で出すくらいなのでフォワードの人材があまりいないのかもしれませんが、もう少し枠を脅かすシーンがあればまた違った展開もあったかもと思います。それにしても高松ってどうしたんでしょう。ベンチ入りもしていませんでしたが。
結局、岡田・ウェリントンに効率よく決められて最終的には4-0で湘南の勝利。スコアほど力の差があったようには思いませんが、湘南が効率よく点を決めた部分もありなかなかインパクトの有るスコアで終わりました。

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三点目の時の岡田選手のシュート。体いっぱいを使っての渾身のシュート

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元川崎の木村祐志選手・風間宏矢選手が出場も及ばず

2600円の話

で、表題の2600円の話になるわけです。
この日に訪れた二つのイベントはどちらも実費ベースでは2600円でした。岡田美術館の方は定価2800円ですが、箱根湯本駅で200円割引券をもらい2600円を支払いました。一方、ベルマーレの方は立ち見席以外の一番安い席ということで、メインスタンド・バックスタンド自由席はどちらもお値段一緒で2600円でした。

これは岡田美術館への道すがらで聞いた話ですが、この2600円という金額は全国の美術館で2番めに高いという噂です。ちなみにコレより高いのが鳴門大塚国際美術館(3240円)らしい。確かに他の美術館と比べてお値段はかなり高いです。しかし上記の通り展示作品もレベルが高いですし、展示施設がかなりグレードの高いものを使っているようで、東京国立博物館に匹敵する鑑賞環境が用意されているように思いました。あの映り込みの少ないガラスケースは相当高いはず。
というわけで岡田美術館の入館料については、少し驚きましたがまあ納得できないこともないと言った感想です。

そこで湘南のメインスタンド2600円。
屋根なし(実際この日は雨を心配しながらの観戦でした。)・外で2時間・勝敗の保証なしと考えると「うーん」となってしまうわけです。今の湘南であればサッカー観戦が好きな人から見れば十分納得の行く試合ができているんだと思います。しかし、サッカーに特にフックがない人にとって休日に2600円使うのはそこそこレベルの高いことなのだなあ、と美術館の入場料と比較して改めて実感。普段はシーズンチケットなんかを利用しているわけであまり気にしていませんでした。
映画も一本2000円弱なんですよね。さらに野球も2000円台前半ですが、ドーム球場や雨天中止のお陰で、雨の中で観戦・応援ということはないですからね。椅子も一人一個ありますし。
だからこそ、特にサッカー自体に興味を惹かれない人を誘引するための「フードパーク」であったり、様々なイベントであったりという部分を頑張らないといけないということなんですよね。サッカーだけで食べていけるなら、そんなに簡単なことはないわけで。そしてJリーグがスタジアムの屋根、および設備の充実を喧しく言うようになったのもムリもありません。(個人的にはスタジアムをライセンス規準にするのは反対ですが)

今後スタジアム設備の充実がはかれれば、日本で2番目に高い入館料の美術館との観戦環境の差は縮まるかもしれませんが、その時には今回座ったメインスタンドの料金も値上がりしているのだろうなと思うと複雑な気分です。
競合する他のエンタテインメントとの価格と環境のバランスという点ではサッカーはかなり不利な勝負をしなければいけないというのを改めて感じた日曜日でした。